「最近、蓄電池の営業をよく見かけるけれど、本当にそんなに売れているの?」
転職相談を受けていると、住宅設備の営業職を検討している方からこの質問をよくいただきます。
はじめまして、キャリアライターの宮坂隆之です。
新卒で入った住宅設備会社で、エコキュートと太陽光発電の訪問営業を8年やりました。
その後、人材紹介会社で住宅設備・エネルギー業界専門のキャリアアドバイザーを6年務め、今は独立してこの業界の転職について書いています。
私が営業をしていた2010年代前半、蓄電池は「いつか売れるかもしれない高級品」という扱いでした。
カタログには載っていても、お客様との商談で本気で提案することはほとんどなかったと記憶しています。
それが今では、太陽光とセットで検討するのが当たり前の設備になりました。
この記事では、公的な統計と制度の資料をもとに、蓄電池が売れ続けている理由を4つの追い風に分けて整理します。
あわせて、気をつけたい点や、営業の現場がどう変わったかにも触れます。
Contents
蓄電池の出荷はこの10年でどう変わったか
まずは数字から確認します。
使うのは、一般社団法人日本電機工業会(JEMA)が毎年公表している定置用蓄電システムの出荷統計です。
1.2万台から15万台超へ
JEMA蓄電システム自主統計 2025年度出荷実績によると、家庭などに設置される系統連系型の蓄電システムの出荷台数は次のように推移しています。
| 年度 | 出荷台数 | 前年比 | 平均容量 |
|---|---|---|---|
| 2013年度 | 約1.2万台 | - | - |
| 2019年度 | 約10.5万台 | 166% | 7.52kWh |
| 2023年度 | 約15.6万台 | 118% | 8.69kWh |
| 2024年度 | 約15.9万台 | 102% | 9.61kWh |
| 2025年度 | 約15.4万台 | 97% | 10.06kWh |
累計の出荷台数は113.6万台に達しました。
なお、この統計はJEMAの委員会に参加するメーカー14社の集計です。
参加していない海外メーカーなどは含まれないので、市場全体はこれより大きいと考えてください。
台数は横ばい、1台あたりの容量は過去最大
表を見ると、2025年度の台数は前年を少し下回っています。
「急増中」という言い方は正確ではありません。
年15万台前後の高い水準で売れ続けている、というのが実態に近い表現です。
一方で、出荷容量の合計は154.5万kWhで前年比101%となり、過去最高を更新しました。
1台あたりの平均容量は初めて10kWhを超えています。
容量ベースで見ると、10〜20kWh未満の大きめの機種が初めて最多になりました。
台数は横ばいでも、一軒ごとにより大きな蓄電池を選ぶようになっているわけです。
この「大容量化」が、後で説明する追い風とつながってきます。
追い風1:卒FITで「売る」から「使う」へ
2019年度の前年比166%という伸びには、はっきりした理由があります。
住宅用太陽光の「卒FIT」が始まった年だからです。
2009年に始まった余剰電力の買取制度は、買取期間が10年でした。
資源エネルギー庁の解説記事「住宅用太陽光発電にせまるFIT買取期間の満了、その後どうする?」によれば、2019年11月から満了が順次始まっています。
2019年の11月と12月だけで約53万件、2023年までの累積で約165万件がFITを卒業する見込みとされていました。
卒FIT後も電気を売ることはできますが、単価は大きく下がります。
たとえば東京電力エナジーパートナーの卒FIT向けの標準的な買取プランは、1kWhあたり8.50円です。
同社の従量電灯Bで電気を買うと、電力量料金だけで1kWhあたり29.80〜40.49円かかります。
売れば8円台、買えば30円以上。
この差を見れば、昼に発電した電気をためて夜に自分で使うほうが得だと考える家庭が増えるのは自然です。
私が営業をしていた頃は、太陽光の提案といえば「売電で何年で元が取れるか」がほぼすべてでした。
卒FITを境に、話の中心が「どれだけ自分の家で使えるか」に移ったのだと思います。
追い風2:電気代の上昇と買取価格の設計
2つ目の追い風は、電気代そのものが上がっていることです。
電気料金には、再生可能エネルギーの買取費用をまかなう「再エネ賦課金」が上乗せされています。
経済産業省の2026年度の買取価格と賦課金単価に関する発表によると、2026年度の単価は1kWhあたり4.18円です。
2025年度の3.98円から上がり、初めて4円台に乗りました。
月400kWh使う家庭の目安で、月1,672円、年20,064円の負担になります。
同じ発表には、新しく太陽光を付ける家庭向けの買取価格も載っています。
2025年度下半期から「初期投資支援スキーム」が導入され、住宅用(10kW未満)は最初の4年間が24円、5〜10年目が8.3円という二段階の価格になりました。
5年目からの8.3円は、卒FIT後の買取単価とほぼ同じ水準です。
つまり、これから太陽光を付ける家庭も、5年目以降は自家消費の価値が大きくなります。
最初から蓄電池とセットで考える家庭が増えるのは、この価格の組み立てを見れば納得がいきます。
JEMAの統計でも、蓄電池と太陽光を1台のパワーコンディショナーでつなげる「マルチ」タイプの比率は2025年度に89.7%でした。
蓄電池は単体で買うものではなく、太陽光とセットで入れるものになっています。
追い風3:補助金が早い時期に締め切られるほどの需要
3つ目は補助金です。
国の補助事業として、一般社団法人環境共創イニシアチブ(SII)が執行する家庭用蓄電システムの導入支援事業があります。
令和7年度補正 DR家庭用蓄電池事業の事業概要ページによると、補助の上限は1申請あたり60万円です。
電力が足りないときに使い方を調整する「DR(デマンドレスポンス)」に対応することが条件になっています。
2026年3月に公募が始まったこの事業は、2026年5月29日に申請額が予算に達し、受付を終えました。
公募が始まってから約2か月です。
交付決定は12,192件にのぼっています。
公募要領には、補助の対象になる蓄電池の価格の上限(目標価格)も書かれています。
設備費と工事費を合わせて、蓄電容量1kWhあたり12.5万円(税抜)以下であることが条件です。
補助金は、高すぎる価格での販売を抑える役割も担っているわけです。
自治体の支援もあります。
東京都の「家庭における蓄電池導入促進事業」は、令和8年度は蓄電容量1kWhあたり10万円を助成しています(DR実証に参加しない場合は1戸あたり上限120万円)。
東京都は2025年4月から、大手ハウスメーカーなどが建てる新築住宅に太陽光の設置を義務づける制度も始めました。
国の補助金は2026年度分の受付が終わっているので、これから検討する方は、お住まいの自治体の制度を確認するのが先になります。
追い風4:停電への備え
4つ目は災害への備えです。
2024年1月の能登半島地震では、経済産業省が内閣府の会議に提出した資料によると、石川県を中心に最大で約4万戸が停電しました。
台風や大雪による停電も毎年のように起きています。
冷蔵庫、照明、スマートフォンの充電くらいは停電中も使いたい。
そう考えると、ためた電気を使える蓄電池は安心材料になります。
東京都の補助事業も、目的に「非常時のエネルギー自立性の向上」を掲げています。
SIIの補助事業には、災害時の対応体制を整えたメーカーの製品に補助額を上乗せする仕組みがあります。
大容量化が進んでいるのも、この流れと無関係ではないはずです。
停電時に家全体の電気をまかなえるタイプを選ぶと、どうしても容量は大きくなります。
追い風の陰で気をつけたいこと
ここまで追い風ばかりを並べてきましたが、蓄電池がどの家庭にも合うわけではありません。
売れている商品には、強引な売り方も集まってきます。
訪問販売のトラブル
独立行政法人国民生活センターは2021年6月、家庭用蓄電池の勧誘トラブルについて注意を呼びかけました。
相談件数は2016年度の325件から、2020年度には1,314件まで増えています。
購入のきっかけの約8割は訪問販売でした。
2025年6月には、太陽光発電の「点検商法」についても注意喚起が出ています。
「点検が義務化された」などと言って訪問し、高額な契約を結ばせる手口で、2024年度の相談は613件と前年度の約2倍でした。
卒FITを迎えた家庭が狙われやすく、蓄電池の勧誘の入り口にもなりえます。
訪問販売で契約した場合は、契約書面を受け取ってから8日以内ならクーリング・オフができます。
その場で決めず、複数の会社から見積もりを取るのが基本です。
蓄電池が向く家・向かない家
営業をしていた経験から、向き不向きの目安を表にまとめます。
| 向いている家 | 向きにくい家 |
|---|---|
| 太陽光をすでに付けていて、卒FITを迎えた・迎える | 太陽光がなく、付ける予定もない |
| 昼は留守がちで、発電した電気を使いきれていない | 昼間の在宅が多く、発電した電気をその場で使えている |
| 電気の使用量が多く、毎月の電気代が高い | もともと電気代が安い |
| 停電への備えを重視したい | 停電時の備えは別の方法で足りている |
蓄電池は数十万円から百万円を超える買い物です。
電気代の削減だけで元を取ろうとすると、10年以上かかることも珍しくありません。
「何のために付けるのか」を先に決めておくと、容量選びも会社選びも迷いにくくなります。
営業の現場はどう変わったか
最後に、働く側の話を少しします。
蓄電池の営業は、いまや「売り込む仕事」から「電気の使い方を診断する仕事」に変わりつつあります。
卒FITの時期、今の電気料金プラン、家族の生活時間を聞き取ったうえで、そもそも蓄電池が必要かどうかから考える必要があるからです。
前の章で触れたように、強引な売り方への目が厳しくなっていることも背景にあります。
実際に、聞き取りを重視する体制をとっている会社もあります。
たとえば東京・勝どきに本社を置く株式会社エスコシステムズは、ENEOSサンエナジーの販売代理店として、太陽光、蓄電池、エコキュートなどを「省エネ・創エネ・蓄エネ」の組み合わせで提案しています。
同社の採用サイトによれば、営業は訪問でアポイントを取る担当、電気料金の診断や悩みの聞き取りをする担当、具体的な製品を提案する担当に分かれています。
聞き取り担当については「積極的な売り込みは行いません」と説明しています。
公式サイトでは、2025年9月30日時点で省エネ設備の導入が11,000件を超えたこと、ENEOSサンエナジーから6年連続で表彰を受けたこと(2025年12月時点)が紹介されています。
さいたま、仙台、大阪、新潟にも拠点があります。
会社の概要や過去の募集内容は、doda内のエスコシステムズの企業・求人ページで確認できます。
キャリアアドバイザーとして転職相談を受けていた頃、蓄電池の営業に興味を持つ方の多くが「訪問販売のイメージ」を気にしていました。
会社を選ぶときは、給与や休日だけでなく、どんな提案の仕方をしているかを面接で聞いてみてください。
その答え方に、会社の姿勢がよく表れます。
まとめ
蓄電池は、年15万台前後という高い水準で売れ続けています。
台数は横ばいでも、1台あたりの容量は10kWhを超え、過去最大になりました。
背景にある追い風は4つです。
- 卒FITで、電気を「売る」より「ためて使う」ほうが得になった
- 再エネ賦課金が初めて4円台になり、電気代が上がっている
- 国の補助金が約2か月で予算に達するほど需要がある
- 地震や台風による停電への備えを求める家庭が増えた
一方で、訪問販売のトラブルも続いています。
買う側は「何のために付けるのか」を決めてから、複数の見積もりを比べてください。
働く側は、お客様の暮らしを聞き取り、必要かどうかから一緒に考える会社を選ぶと、長く続けやすい仕事になるはずです。

