再生プラスチックを扱う仕事を10年以上やってきましたが、いまだに「PIRとPCR、どっちを指定すればいいんですか?」という質問は減りません。むしろ最近のほうが多いくらいです。プラスチック資源循環促進法の本格運用、そして2026年4月に始まる資源有効利用促進法の改正で、再生材の扱いが「環境部門の関心事」から「調達部門の業務」へ切り替わったからでしょう。
申し遅れました、三宅健司と申します。大手化学メーカーで樹脂の調達と品質管理を5年務め、そのあと業界専門誌「マテリアル&リサイクル」の編集を10年経験し、現在は再資源化・サーキュラーエコノミー領域を専門に取材しているフリーライターです。全国の再生樹脂メーカーを100社以上回ってきました。
この記事は、PIRとPCRの基本的な違いから、調達担当者が現場で押さえておくべき実務ポイントまでをまとめたものです。教科書的な定義の羅列ではなく、「発注仕様書の書き方が分からない」「サプライヤーをどう絞ればいいか分からない」といった具体的な悩みに答える内容に仕上げました。
Contents
そもそも「再生プラスチック」とは何を指すのか
まず前提を揃えます。再生プラスチックという言葉は、業界の人間でも案外あいまいに使っています。
バージン材と再生材の境界線
バージン材は原油や天然ガスから合成された、一度も使われたことのない樹脂です。これに対して再生材は、何らかの形で一度ライフサイクルに入った樹脂を再利用したもの。ここまでは誰でも分かります。
問題は「どの段階で再利用するか」によって、再生材の中にも種類があるという点です。ここで出てくるのがPIRとPCRです。
マテリアルリサイクルとサーマルリサイクルは別物
もう一つ整理しておきたいのが、リサイクル手法による違いです。
- マテリアルリサイクル:廃プラを溶かして再びプラスチック原料として使う方法
- ケミカルリサイクル:化学分解してモノマーや油まで戻す方法
- サーマルリサイクル:燃やして熱エネルギーとして回収する方法(厳密にはエネルギー回収)
「再生プラスチック」と呼ぶときは、基本的にマテリアルリサイクル由来のものを指します。サーマルリサイクルは焼却ですから、そもそも素材として再生されていません。EUでは「リサイクル」と認めない国も増えました。
なぜいま、再生材の正確な区分が必要なのか
理由は3つあります。
- 法規制が「再生材の使用率」を求めるようになった
- 取引先(特に欧米のブランド)が、サプライヤーに再生材含有率の開示を求めるようになった
- CO2削減レポーティング(Scope3)で、再生材の使用が削減量として認められるようになった
つまり「再生材を使った」では足りなくて、「どのタイプの再生材を、何%使ったか」を説明する必要が出てきたわけです。だからPIRとPCRの違いを正確に押さえる必要があります。
PIR(ポストインダストリアルリサイクル)の基本
ここからが本題です。
工場排出物が「原料」になる仕組み
PIRはPost-Industrial Recycledの略で、日本語では「ポストインダストリアルリサイクル」、または「プレコンシューマーリサイクル」と呼ばれます。JIS Q 14021(ISO 14021)では後者の呼称を採用しています。
中身を一言で言えば、製造工程で発生した廃プラスチックを再利用したもの。具体的には次のような素材です。
- 射出成形時のスプルー、ランナー、ゲート部分の切り落とし
- 不良品として弾かれた成形品
- ロットアウトした余剰原料
- 押出フィルムの耳トリミング
これらはまだ「消費者の手に渡っていない」プラスチックです。汚れていないし、樹脂の種類も明確、添加剤の組成も把握できる。だから取り扱いが比較的楽です。
PIRの品質的なメリット
私が現場を回ってきた経験で言えば、PIRの最大の魅力は品質の安定性です。
工場で出てくる廃材は、どの製品の何工程目で出たものか追跡できます。樹脂グレードが明確で、異物混入のリスクが低く、色や物性のばらつきも小さい。再生ペレットにしたあと、バージン材に近い性能を出しやすいわけです。
そのため自動車部品の内装材、家電の筐体、産業用パイプといった、ある程度の強度や外観品質を求める用途で使われやすい傾向があります。
PIRが抱える限界
ただPIRには構造的な弱点があります。供給量が、製造業の生産活動に依存しているという点です。
景気が悪くなれば工場の稼働が落ち、廃材も減る。逆に好況期は奪い合いになります。さらに、各メーカーが「自社内で再利用する」流れが強まると、外販市場に出てくるPIRはどんどん減っていきます。
もう一つ、消費者から見た「環境貢献の手応え」が弱いという点もあります。PIRは元々企業が出した端材ですから、家庭から回収した使用済みプラと違って「使い終わったあとに再生されている」という物語性はありません。後述するように、認定制度の世界ではPCRのほうが評価されがちです。
PCR(ポストコンシューマーリサイクル)の基本
次にPCRです。
「使い終わったあと」から戻ってくる原料
PCRはPost-Consumer Recycledの略。日本語訳は「ポストコンシューマーリサイクル」で、消費者が一度使い終わった製品を回収して再生したものを指します。
代表的なものを並べると次のとおりです。
- 自治体回収のペットボトル、容器包装プラスチック
- 廃家電の筐体プラスチック
- 廃自動車のバンパー、内装樹脂
- 業務用回収の物流用パレット、コンテナ
これらは家庭・商業・産業の現場で「製品としての役割を終えたもの」。流通チェーンから返品されたものも、JIS Q 14021ではPCRに含まれます。
PCRの社会的価値
PCRには明確な社会的意義があります。一般生活ごみとして処理されるはずだったプラスチックを資源に戻す行為そのものが、循環経済の本丸だからです。
エコマーク事務局によると、ポストコンシューマー材料を使った製品は、PIR材料を使った製品よりも基準配合率が緩く設定されています。再生プラスチック全般では50〜70%の配合が求められるのに対し、PCR配合の場合は25〜60%でも認定対象になります。それだけ「家庭から戻ってきた素材を使う」ことは難易度が高く、評価されるという制度設計です。
エコマーク認定基準の詳細はエコマークと資源循環(再生プラスチック編)で確認できます。
PCRが直面する現実的な課題
ただ、調達担当者の立場でPCRを扱おうとすると、いくつか頭の痛い問題に直面します。
一つは品質のばらつきです。家庭から戻ってくるプラスチックは樹脂の種類が混ざっている、汚れがついている、ラベルや異素材が残っている、添加剤の履歴が分からない。これらを分別・洗浄してペレット化するため、コストがかさみ、それでもバージン材と完全に同等の物性は出にくい場合があります。
もう一つは色管理の難しさ。回収品の色が雑多なので、淡色のペレットが作りにくい。多くのPCRペレットがダークグレーや黒色寄りになるのは、このためです。
そして供給量と価格の不安定さ。回収量は自治体の制度設計や住民の協力度に依存しますし、海外のPCR需要が高まると、国内の調達が圧迫されることもあります。
PIRとPCRを比較表で整理する
ここまでの内容を一覧で整理します。発注仕様や社内資料を作るときの叩き台にしてください。
| 比較項目 | PIR(ポストインダストリアル) | PCR(ポストコンシューマー) |
|---|---|---|
| 原料 | 製造工程で発生した端材・不良品 | 消費者が使用後に廃棄した製品 |
| 樹脂の純度 | 高い(単一グレードを揃えやすい) | 低い(混在・汚れあり) |
| 色管理 | 比較的しやすい | 暗色系に偏りやすい |
| 物性の安定性 | バージン材に近い | ばらつき大、銘柄選定が必要 |
| 価格 | 中〜高 | 中(用途によってはバージン並み) |
| 供給安定性 | 製造業の景況に依存 | 回収制度・季節変動に依存 |
| 環境訴求の強さ | 弱め | 強い(循環経済の象徴) |
| 認証評価 | 標準 | 優遇されやすい |
| 主な用途 | 産業用部品、工業用フィルム | 容器包装、雑貨、再生繊維 |
このようにPIRとPCRは「どちらが優れている」という話ではなくて、用途と訴求軸の組み合わせで選ぶものです。社内で「再生材を使おう」となった瞬間に、まずこの表のどこに自社製品が位置するのかを整理するのが現実的です。
調達担当者が押さえておきたい5つの実務ポイント
ここからは現場の話です。実際に再生樹脂を発注する担当者が、これだけは押さえておきたいというポイントを5つに整理しました。
①「PCR比率」を発注仕様にどう書くか
意外に多いのが、仕様書に「再生材30%以上」とだけ書いてしまうケース。これだとPIRとPCRが混ざってもOKという解釈になります。
書き分け方の例は次のとおりです。
- 「PCR比率30%以上を含む再生材を50%以上含有」
- 「PIRのみ、再生材含有率50%以上」
- 「再生材を全体の40%含み、うちPCRが20%以上」
具体的な数値と区分をはっきり書けば、サプライヤー側も製造計画を立てやすくなりますし、納品時のトラブルが減ります。
②サプライヤーの認証取得状況を確認する
再生材の世界では、第三者認証の有無が「自社で説明責任を果たせるかどうか」を左右します。代表的なものを挙げます。
- GRS(Global Recycle Standard):リサイクル材含有率と社会・環境要件まで含む包括認証
- RCS(Recycled Claim Standard):リサイクル材含有率を証明するシンプルな認証
- ISO 14021:自己宣言型の環境主張の指針
- エコマーク:日本国内向け、用途別の基準配合率を規定
このうちGRSは特に重要です。環境省の環境ラベルデータベースによると、GRSはリサイクル含有率50%以上の製品が対象で、Textile Exchangeが2011年から運営する国際規格。詳細は環境省「環境ラベル等データベース」のGlobal Recycle Standard(GRS)ページを参照してください。
繊維中心の規格ですが、最近はプラスチックリサイクル業者でもGRSを取得する例が増えました。CoC(Chain of Custody)の要件まで定めているので、トレーサビリティの根拠資料として使い勝手が良いのです。
③樹脂種別と用途のミスマッチを避ける
「うちはPCR配合のPP(ポリプロピレン)が欲しい」と言われても、用途を聞かないと答えられないことが多々あります。
食品容器に使うPPと自動車内装に使うPPでは、要求される物性も添加剤の規制も全く違います。再生材は元々の使われ方によって添加剤履歴が異なるため、特定の用途では使えないPCRもあります。
サプライヤーに問い合わせるときは「PP・MFR10前後・厚物射出成形・自動車内装グレード・PCR30%」のように、樹脂・グレード・成形方法・用途・PCR比率をセットで伝えると、現実的な提案が返ってきます。
④トレーサビリティの根拠資料を要求する
「PCRです」と書類に書くだけでは説明責任は果たせません。
仕入元の証明書、回収ロットの記録、認証機関の証書、製造ロットごとの原料配合データ、これらをパッケージで提示できるサプライヤーは信頼度が高い。逆に「うちは長年PCRをやってるから大丈夫」とだけ答える業者は、サプライチェーン監査が入った瞬間に詰まります。
経済産業省の資料でも、動静脈連携によるバリューチェーン全体の可視化、つまりトレーサビリティの確保が再生材普及の鍵だと繰り返し指摘されています。
⑤2026年4月の資源有効利用促進法改正を踏まえた中期視点
これは中長期の話です。2026年4月から、一定規模以上のプラスチック使用事業者には、再生材の利用計画策定と進捗報告が求められるようになります。自動車、家電、住宅設備、情報通信機器などが主な対象です。
具体的な義務化スケジュールや特定事業者の定義は環境省「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(プラ新法)」普及啓発ページで随時更新されています。
現時点で再生材を使っていない事業者でも、3年後・5年後を見据えると、いま信頼できるサプライヤーと関係を構築しておくのが得策です。法施行直前になってから探し始めると、優良なサプライヤーは既に他社との供給契約で埋まっている、という事態にもなりかねません。
信頼できる再生樹脂メーカーをどう探すか
最後にサプライヤー探しの実務的なヒントです。
業界団体の会員情報を起点にする
私の取材経験から言うと、再生樹脂メーカーを探すなら、まずは業界団体の会員リストから当たるのが効率的です。素性が分かるし、業界内での評判も追いやすい。
例えば東日本プラスチック製品工業協会(東京都中央区築地)には、関東甲信越エリアを中心とした再生樹脂メーカーや成形業者が多数所属しています。賛助会員として加盟している企業の中には、マテリアルリサイクル専業で50種類以上の樹脂を扱う事業者もいます。具体例の一つとして、群馬県太田市に拠点を置く日本保利化成株式会社の協会会員紹介ページが参考になります。所属協会・連絡先・公式サイトといった一次情報がまとまっているので、初期スクリーニングに便利です。
ほかにも全日本プラスチック製品工業連合会、日本不織布協会、プラスチック循環利用協会など、業種ごとに業界団体が複数存在します。複数の団体に重複所属している企業ほど、業界内での認知度が高い傾向があります。
取扱樹脂と認証の組み合わせで絞り込む
候補が数社まで絞れたら、次は「取扱樹脂×認証×規模」で絞ります。
- 必要な樹脂種を扱っているか(ABS、PP、PEなど自社に必要なグレード)
- GRS、RCSなど該当する第三者認証を取得しているか
- 月間処理能力が自社の発注量と釣り合うか
このうち扱える樹脂の幅は意外と重要です。単一樹脂しか扱えない業者は専門性が高い反面、複数樹脂をミックスして発注する場合に窓口が分散します。50種類以上の樹脂を一社で対応できるメーカーなら、調達の手間が減ります。
現場見学を申し込む価値
候補を2〜3社に絞ったら、必ず工場見学を申し込んでください。私はこれを「最後の関門」と呼んでいます。
工場の整理整頓、原料の保管状態、ペレット製造ラインの清掃頻度、検査体制。これらは書類では絶対に分かりません。再生材は元の素材のばらつきが大きいため、「異物混入をどう減らすか」が品質を分けるのです。現場が雑然としているメーカーから安定品質を期待するのは難しい。逆に、整然とした工場でラインの一つ一つに作業手順が掲示されているような現場は、まず外しません。
まとめ
PIRとPCRの違いは、原料の出どころが「工場の生産工程」か「消費者の使用後」かという、一見シンプルな話です。ただ、その違いが品質・価格・供給安定性・環境訴求・認証評価、すべてに波及します。
調達担当者として押さえておきたいのは次の5点です。
- PIRは品質が安定するが、社会的訴求は弱め
- PCRは循環経済の中核だが、品質と供給に変動がある
- 発注仕様には「再生材30%」ではなく、PIR・PCRの内訳まで明記する
- GRSなど第三者認証の有無で、説明責任の重さが変わる
- 2026年4月の資源有効利用促進法改正を見据え、いまから優良サプライヤーと関係を作る
再生プラスチックは、もう「環境部門が考えるテーマ」ではなくなりました。素材調達、品質保証、サプライチェーン管理、すべての部門が関わる経営課題です。発注書の一行に「PCR」と書くか「PIR」と書くかで、3年後の自社の競争力が変わる可能性すらあります。
腰を据えて、まずはサプライヤー一社の工場を見に行く。そこから始めるのが、結局のところ一番の近道だと、私は10年の取材を通じて確信しています。



