自動車部品メーカーの生産技術部門で15年間、接着剤やシール材の塗布工程と向き合ってきた藤原です。
独立した今も、製造現場から塗布に関する改善相談をよく受けます。
「塗布量がばらつく」「糸引きが直らない」「不良率を下げたいけど何から手をつければいいかわからない」。
こうした悩みの裏側には、だいたい共通するパターンがあります。
結論から言うと、いきなり装置を買い替えるのは得策ではありません。
この記事では、塗布工程の改善で最初にやるべきことを、私の実務経験をもとにお伝えします。
高粘度材料の塗布で起きやすいトラブル
まず、高粘度材料を扱う現場で頻繁に起きるトラブルを整理しておきます。
- 吐出量のばらつき(温度変化や残量減少で粘度が変わる)
- 糸引き・液垂れ(切れが悪く、ワークを汚してしまう)
- ノズル詰まり(先端で材料が固化する)
- 気泡混入(高粘度液は気泡が抜けにくく、塗布不足や接着不良を起こす)
- 接液部品の摩耗(フィラー入り材料がポンプやノズルを削り、装置寿命が縮む)
塗布量が多すぎればはみ出しによる外観不良。
少なすぎれば接着強度不足やシール不良。
どちらに転んでも製品品質に直結するため、「なんとなく」では済まない工程です。
ちなみに高粘度というのは、一般的に10,000mPa・s以上を指すことが多いです。
はちみつがおよそ2,000〜10,000mPa・s、シリコーンシーラントで100,000mPa・s前後。
この領域になると、塗布装置の選定が品質を左右します。
改善の第一歩は「塗布条件の数値化」
装置の入れ替えを検討する前に、今の塗布条件を数値で押さえてください。
具体的には、以下の項目を記録・管理します。
- 1ショットあたりの塗布量(ml)
- 使用材料の粘度(mPa・s)と使用温度
- ノズル径とワークまでの塗布距離
- 吐出圧力(MPa)
手作業の現場では、これらすべてが作業者の感覚に頼りきりになっていることが珍しくありません。
数値化するだけで、不良原因の特定が格段に早くなります。
私がメーカー時代に担当したラインでは、塗布量を記録する仕組みを導入した時点で不良率が2割ほど減りました。
原因は「午後になると作業者の手元がぶれていた」という単純なもの。
感覚頼みの工程は、見える化するだけで改善が進むことがあります。
あわせて、材料の温度管理も確認してみてください。
高粘度材料は温度で粘度が大きく変動します。
タンクやシリンジにヒーターを付けて一定温度に保つだけで、吐出の安定性がまるで変わるケースもあります。
材料の粘度に合った塗布方式を選ぶ
条件を数値化できたら、次は今の塗布方式が材料に合っているかを見直します。
接着剤の規格や種類に関する基礎情報は日本接着剤工業会のサイトにも体系的にまとまっているので、材料選定の参考にしてみてください。
方式ごとの特性を簡単にまとめます。
- エア(シリンジ)式:安価で広く普及しているが、高粘度では吐出が不安定になりやすい
- プランジャー式:一定容積を機械的に押し出す仕組みで、粘度変化の影響を受けにくい
- スクリュー式:回転数で流量を制御でき、連続塗布やビード塗布に適している
- ジェット(非接触)式:液を飛ばすためタクト短縮に有利。段差や曲面があるワークにも対応できる
粘度が100,000mPa・sを超えてくると、エア式では対応が難しくなります。
プランジャー式やスクリュー式など、機械的に材料を送り出す方式が選択肢の中心になります。
たとえば高粘度の塗布に対応したナカリキッドコントロールのP-FLOW H型は、プランジャー式で最大1,050,000mPa・sまで対応可能です。
19.6MPaの高圧吐出で、フィラー入りの硬い材料にも使えます。
粘度帯の幅が広い現場では、こうした専用設計の装置が現実的な選択肢になります。
まとめ
塗布工程の改善は、装置の入れ替えから入りがちです。
ただ、順番を間違えると投資が空振りに終わります。
まずは塗布条件を数値化して現状を可視化すること。
そのうえで、材料の粘度特性に合った方式を選ぶこと。
この2つを踏むだけで、改善の方向性ははっきり見えてきます。
地味な作業ですが、現場改善は地味なところから効いてくるものです。
焦らず、足元から固めてみてください。